加害の心理 15
[5月3日(木)]
家の車庫でスタッドレスタイヤからノーマルタイヤへ履き替え作業をした。
免許停止中に運転するつもりはないが、もししても、夜の繁華街とか速度取り締まりしている所へ行かなければ、捕まることは無いんじゃないかと思っていた。
作業を終え、車庫のシャッターを閉めた時、偶然にも目の前をパトカーが通り過ぎた。大型車泣かせのこの細い道でパトカーを見るのは、幼稚園の時、母が布団押し売り業者に怒って通報して以来だった。
もしかしたら警察は最近の免停者リストを持っていて、免停者の自宅付近を重点的にパトロールしているのかもしれないな。街なかで一般人の違反に目を光らせるよりは、今にも油断して違反を起こしそうな者に近付いた方が、よっぽど検挙率が高そうだし。
免停中は絶対に運転しない、出来ない。罪人は罪人らしく。
朝と同様、会社から帰る時も電車は1時間に1本しか来ない。
毎日10〜30分程度の待ち時間があった。その間、駅のベンチで読書をした。
仕事じゃないし、プライベートとも違うそんな過ごし方を、ゆとりと呼ぶんじゃないかと思った。
先を急いでも仕方ない、俺は今までなんて急いでいたんだろう‥‥それは自転車移動も同じで、50メートル先の青信号に間に合わず、向かい風や上り坂でスピード維持出来なくなったりすることで強く感じた。
そして今度は、他人の車の危険運転をよく感じるようになった。停止線ではなく、左右を見渡せる位置まで一気に突っ込んで来る車には轢かれそうになった。
もし轢かれたら、俺が警察官や救急隊員に言われたみたいに「 何考えてんだ! 」と怒鳴ってやりたい。そして少し落ち着いたら、運転者には安全運転義務があるんだぞ、お前も平和ボケしてたんじゃないのか?、と説教してやりたい。
その後許せるかどうかは、相手の対応次第なんだろうか。どうしたら気が晴れるんだろうな。
[5月10日(木)]
保険会社指定の自動車修理工場を利用したということで、保険会社から二千円分のキャッシュバックが通帳に振り込まれていた。
[5月15日(火)]
夜中に親知らずの激しい痛みに襲われ、悶えながら朝を待った。イブA錠は全く効かなかった。
会社を午前中休んで口腔外科に行ったが、やはり予定日外の手術は出来ないので、鎮痛薬を出すからそれで我慢するように言われた。
それ以降の日々は、時々起こる疼きと、薬が無くなるのを恐れながら過ごした。
次第に、何もかもが演技のような気がして来た。
会社に行きたくないワケではない。行かなければならないと思う。体は動く。だから鬱ではないと思う。
電車は、いつもの車両のいつもの場所に乗れば、いつもの高校生達に顔を覚えられて、降り易くなることが分かった。
空腹には食事。痛みには薬。罰金には労働と決まっている。
正しいことをしていれば誰も文句は言わない‥‥薬のせいか、不安のせいか、なんだか頭が冴えなくなってしまったけれど‥‥自分の体を正しく運転していると思う。
[5月24日(木)電車通勤最終日 PM19:20分頃]
今期の目標と前期の成果を確認する為に、上司が課内の1人1人と面談していた。
俺は帰ろうかと思っている時に呼ばれた。
「 やっと免停明けるな。どうだった? 腐らないでよく頑張ったな 」
という言葉で始まり、相変わらずの対人能力不足を指摘され、今度は新しい測定装置の操作を覚えてみないか、という話で終わりそうになった。
俺はそこでようやく、次期の労働契約の更新をせず、退職したいと告げた。
辞めてどうするかまだ決めていないし、罰金の支払いと、車検の予定もある。どう考えても良い時期じゃない。
だがここで更新してしまうと、その次の退職機会は半年後になる。半年先の自分を待たずに、今この精神状態で辞めたい。
上司は驚いていたが、改まって正社員と派遣社員の立場に線を引いて、
「 分かりました。承りました 」と答えた。
[PM20:10分頃]
20時台の電車は行ってしまった。次は1時間半後の終電しかない。
家に電話を掛け、自転車の回収ついでに迎えに来てもらうことにした。
親には世話になりっ放しだ。人に頼ったり任せたりしていてはいつまでも自立出来ないな。
免停中に雨が降ってレインコートを着たのは1回だけだった。
自転車は先日駐輪場で倒れていて、ベルの中の歯車が紛失して音が出なくなっている。
グチャグチャのドロドロだけど、少しずつ解決に向かっているんだと思う。
つづく
家の車庫でスタッドレスタイヤからノーマルタイヤへ履き替え作業をした。
免許停止中に運転するつもりはないが、もししても、夜の繁華街とか速度取り締まりしている所へ行かなければ、捕まることは無いんじゃないかと思っていた。
作業を終え、車庫のシャッターを閉めた時、偶然にも目の前をパトカーが通り過ぎた。大型車泣かせのこの細い道でパトカーを見るのは、幼稚園の時、母が布団押し売り業者に怒って通報して以来だった。
もしかしたら警察は最近の免停者リストを持っていて、免停者の自宅付近を重点的にパトロールしているのかもしれないな。街なかで一般人の違反に目を光らせるよりは、今にも油断して違反を起こしそうな者に近付いた方が、よっぽど検挙率が高そうだし。
免停中は絶対に運転しない、出来ない。罪人は罪人らしく。
朝と同様、会社から帰る時も電車は1時間に1本しか来ない。
毎日10〜30分程度の待ち時間があった。その間、駅のベンチで読書をした。
仕事じゃないし、プライベートとも違うそんな過ごし方を、ゆとりと呼ぶんじゃないかと思った。
先を急いでも仕方ない、俺は今までなんて急いでいたんだろう‥‥それは自転車移動も同じで、50メートル先の青信号に間に合わず、向かい風や上り坂でスピード維持出来なくなったりすることで強く感じた。
そして今度は、他人の車の危険運転をよく感じるようになった。停止線ではなく、左右を見渡せる位置まで一気に突っ込んで来る車には轢かれそうになった。
もし轢かれたら、俺が警察官や救急隊員に言われたみたいに「 何考えてんだ! 」と怒鳴ってやりたい。そして少し落ち着いたら、運転者には安全運転義務があるんだぞ、お前も平和ボケしてたんじゃないのか?、と説教してやりたい。
その後許せるかどうかは、相手の対応次第なんだろうか。どうしたら気が晴れるんだろうな。
[5月10日(木)]
保険会社指定の自動車修理工場を利用したということで、保険会社から二千円分のキャッシュバックが通帳に振り込まれていた。
[5月15日(火)]
夜中に親知らずの激しい痛みに襲われ、悶えながら朝を待った。イブA錠は全く効かなかった。
会社を午前中休んで口腔外科に行ったが、やはり予定日外の手術は出来ないので、鎮痛薬を出すからそれで我慢するように言われた。
それ以降の日々は、時々起こる疼きと、薬が無くなるのを恐れながら過ごした。
次第に、何もかもが演技のような気がして来た。
会社に行きたくないワケではない。行かなければならないと思う。体は動く。だから鬱ではないと思う。
電車は、いつもの車両のいつもの場所に乗れば、いつもの高校生達に顔を覚えられて、降り易くなることが分かった。
空腹には食事。痛みには薬。罰金には労働と決まっている。
正しいことをしていれば誰も文句は言わない‥‥薬のせいか、不安のせいか、なんだか頭が冴えなくなってしまったけれど‥‥自分の体を正しく運転していると思う。
[5月24日(木)電車通勤最終日 PM19:20分頃]
今期の目標と前期の成果を確認する為に、上司が課内の1人1人と面談していた。
俺は帰ろうかと思っている時に呼ばれた。
「 やっと免停明けるな。どうだった? 腐らないでよく頑張ったな 」
という言葉で始まり、相変わらずの対人能力不足を指摘され、今度は新しい測定装置の操作を覚えてみないか、という話で終わりそうになった。
俺はそこでようやく、次期の労働契約の更新をせず、退職したいと告げた。
辞めてどうするかまだ決めていないし、罰金の支払いと、車検の予定もある。どう考えても良い時期じゃない。
だがここで更新してしまうと、その次の退職機会は半年後になる。半年先の自分を待たずに、今この精神状態で辞めたい。
上司は驚いていたが、改まって正社員と派遣社員の立場に線を引いて、
「 分かりました。承りました 」と答えた。
[PM20:10分頃]
20時台の電車は行ってしまった。次は1時間半後の終電しかない。
家に電話を掛け、自転車の回収ついでに迎えに来てもらうことにした。
親には世話になりっ放しだ。人に頼ったり任せたりしていてはいつまでも自立出来ないな。
免停中に雨が降ってレインコートを着たのは1回だけだった。
自転車は先日駐輪場で倒れていて、ベルの中の歯車が紛失して音が出なくなっている。
グチャグチャのドロドロだけど、少しずつ解決に向かっているんだと思う。
つづく
2007年08月03日 18:42
日記 (プチ事件・トラブル) | comments(0) |
加害の心理 16
[5月25日(金)PM14:30]
自転車で口腔外科医院に到着。息切れしていたが、血圧測定では影響は出なかった。
親知らずの抜歯手術は、歯茎の切開後、ダイヤモンド微粒子の付いたドリル等で歯を少しずつ砕いて除去し、3針ほど縫うものだった。
痛みや息苦しさはほとんど無かった。
術後は鎮痛薬・抗生物質・整腸剤と、止血用のガーゼを貰った。診療点数は1,277点、費用は3,830円だった。
頬は腫れ、前からあった口角炎は裂けて、殴られたような顔になった。
口を開ければ抜歯箇所から血が溢れて来るので、病院を出た後、コンビニでしばらく時間を潰した。
[PM16:00頃]
警察署の交通課に行って『 運転免許停止期間短縮通知書 』を見せ、免許証を返してもらった。
受付の人には「 御苦労様でした 」と言われた。
口がこんな状態では安心出来ないし、マトモな言葉も出せない。
正常なフリをするのでせいいっぱい。今のままではいつかまた緊張が切れて、同じ過ちを犯すよ。
[5月26日(土)]
車で口腔外科医院に行き、術後診察を受けた。
1ヶ月間の免停は実によく効いた。車は自転車と違い、視界が狭い・周りの音が聞こえない・渋滞になり易い。危険だらけに思えるから、ビクビクしてしまう。
前を走っている車の背面しか見えないのに、それでも進み続けたりするのは、無謀な行為に思えた。
抜歯箇所の異常は無かったが、湧き出る心配を処理しきれなかった。
歯茎と頬の内側を縫い合わせているので口がほとんど開かない。痛みと腫れが酷くなっている。
細菌が侵入したらどうしよう。ドライソケットとか、顎関節症になったらどうしよう。
まさか自分が、ということが、実際に起こっているから、全然楽観できない。
[6月2日(土)]
抜歯箇所の状態は心配に及ばず良好だったので、糸を抜いてもらった。
あとはもう一度経過を見せて治療は終了するという。
痛みは収まりつつある。頬は凹んで左右非対称になった。
そして今度は風邪をひき、鼻水が出るようになった。
[6月4日(月)]
派遣会社の担当者と会い、先月分の給料明細を貰った。
担当者には退職の意思は4月3日に告げていたが、事故直後だったから、俺のことを錯乱状態だと思っていたらしい。
それで退職の手続きが遅れて、俺の上司とモメたらしい。
おまけに時給変更もされていなかった。
もう何を知っても頭の中がトプンと揺れるだけで、抵抗する気持ちは湧かなくなっていた。
[6月9日(土)事故から72日後]
簡易裁判所から略式命令書が届いた。
【 罪となるべき事実 】
業務上過失傷害
【 適用した法令】
刑法第211条第1項前段
刑法54条1項前段、10条
刑法18条、刑事訴訟法348条
【 主文 】
被告人を罰金40万円に処する。
その罰金を完納できないときは金5,000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
ただし、端数を生じたときはこれを1日とする。
その罰金に相当する金額を仮に納付することを命ずる。
[6月13日(水)]
検察庁から罰金の納付書が届いた。
【 納付期限 】
6月25日
【 注意 】
納付期限内に納付しない場合は、労役場への留置の強制執行を受けることがあります。
納付期限を経過した場合は、この納付書を使用して納付することはできません。
退職予定日まであと1週間。所持金は40万に足りない。
つづく
自転車で口腔外科医院に到着。息切れしていたが、血圧測定では影響は出なかった。
親知らずの抜歯手術は、歯茎の切開後、ダイヤモンド微粒子の付いたドリル等で歯を少しずつ砕いて除去し、3針ほど縫うものだった。
痛みや息苦しさはほとんど無かった。
術後は鎮痛薬・抗生物質・整腸剤と、止血用のガーゼを貰った。診療点数は1,277点、費用は3,830円だった。
頬は腫れ、前からあった口角炎は裂けて、殴られたような顔になった。
口を開ければ抜歯箇所から血が溢れて来るので、病院を出た後、コンビニでしばらく時間を潰した。
[PM16:00頃]
警察署の交通課に行って『 運転免許停止期間短縮通知書 』を見せ、免許証を返してもらった。
受付の人には「 御苦労様でした 」と言われた。
口がこんな状態では安心出来ないし、マトモな言葉も出せない。
正常なフリをするのでせいいっぱい。今のままではいつかまた緊張が切れて、同じ過ちを犯すよ。
[5月26日(土)]
車で口腔外科医院に行き、術後診察を受けた。
1ヶ月間の免停は実によく効いた。車は自転車と違い、視界が狭い・周りの音が聞こえない・渋滞になり易い。危険だらけに思えるから、ビクビクしてしまう。
前を走っている車の背面しか見えないのに、それでも進み続けたりするのは、無謀な行為に思えた。
抜歯箇所の異常は無かったが、湧き出る心配を処理しきれなかった。
歯茎と頬の内側を縫い合わせているので口がほとんど開かない。痛みと腫れが酷くなっている。
細菌が侵入したらどうしよう。ドライソケットとか、顎関節症になったらどうしよう。
まさか自分が、ということが、実際に起こっているから、全然楽観できない。
[6月2日(土)]
抜歯箇所の状態は心配に及ばず良好だったので、糸を抜いてもらった。
あとはもう一度経過を見せて治療は終了するという。
痛みは収まりつつある。頬は凹んで左右非対称になった。
そして今度は風邪をひき、鼻水が出るようになった。
[6月4日(月)]
派遣会社の担当者と会い、先月分の給料明細を貰った。
担当者には退職の意思は4月3日に告げていたが、事故直後だったから、俺のことを錯乱状態だと思っていたらしい。
それで退職の手続きが遅れて、俺の上司とモメたらしい。
おまけに時給変更もされていなかった。
もう何を知っても頭の中がトプンと揺れるだけで、抵抗する気持ちは湧かなくなっていた。
[6月9日(土)事故から72日後]
簡易裁判所から略式命令書が届いた。
【 罪となるべき事実 】
業務上過失傷害
【 適用した法令】
刑法第211条第1項前段
刑法54条1項前段、10条
刑法18条、刑事訴訟法348条
【 主文 】
被告人を罰金40万円に処する。
その罰金を完納できないときは金5,000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
ただし、端数を生じたときはこれを1日とする。
その罰金に相当する金額を仮に納付することを命ずる。
[6月13日(水)]
検察庁から罰金の納付書が届いた。
【 納付期限 】
6月25日
【 注意 】
納付期限内に納付しない場合は、労役場への留置の強制執行を受けることがあります。
納付期限を経過した場合は、この納付書を使用して納付することはできません。
退職予定日まであと1週間。所持金は40万に足りない。
つづく
2007年08月20日 01:48
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